死者に花を手向けるネアンデルタール人

[ コラム ]

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 今から推定五〜六万年前の旧石器時代、ネアンデルタール人は洞窟の中で暮らしていたそうです。
 その暮らしぶりは、よくわかっていないところも多いようなのですが、石を加工した道具で狩猟などを行っていた様子から、現代の暮らしとは比べようのない原始的なものだったと考えられています。


 1960年代にイランのシャニダール洞窟で、アメリカの考古学者R・S・ソレッキ博士は、ネアンデルタール人の化石とともに、ノコギリソウやヤグルマギクなど数種類の花粉を大量に発見しました。周辺の花粉の量と比べ、化石付近の花粉の量が極端に多いことと、これらの花が昔から薬草として扱われていることから、ソレッキ教授らは「ネアンデルタール人には死者を悼む心があり、副葬品として花を遺体に添えて埋葬する習慣があった」との説を唱えたそうです。
 このシャニダール洞窟の発見には、諸説あるようですが、旧石器時代には他にも死者を弔う為に埋葬されたとされる化石が見つかったこともあり、少なくとも数万年前の人類の祖先とされる人々が死者を弔っていたということは間違いないようです。

 文字もなく、宗教もない時代、人としての最低限の営みが行われていた時代、その暮らしぶりは全く想像ができませんが、倒れていった仲間にそっと花を手向けたネアンデルタール人の背中は、何故か鮮明に想像ができる気がします。それは、そのまんなかに現代の人と同じ「人を思う心」があるからだと思うのです。

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